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アメリカをはじめとする工業国の農業部門が不況に陥り、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、インド、ニュージーランド、南アフリカ連邦の六大農業輸出国では対外債務が増大し利子支払いに困窮した。 続いて、アメリカでは住宅不況に始まった緩やかな景気後退が株式暴落によって激化したが、その影響はヨーロッパや一次産品輸出国にとってより深刻であり、特に三○年のスムート・ホーリー関税法を契機として世界貿易が縮小するや、それらの国々では実質経済が極端に悪化し金融危機が発生した。
こうして大不況は世界同時不況となったが、危機の深刻化と拡大を防ぐためには、国際協調によって主要国が一致して需要拡大に努め、購買力を増加させるために各国が同率で(金に対する)通貨の切下げを行なうべきであった。 しかし、そうした国際協調を指導する立場にあったイギリスは第一次大戦後の疲弊の中で経済力を失っており、他方アメリカは国内事情にばかり目を向けて国際金融や国際通商のリーダーシップをとる意図をもっていなかった。
キンドルバーガーはまとめでこう総括した。 「一九二九年不況が非常に広い地域に及び、著しく深刻であり、大変長引いたのは、(一)投げ売りされる商品に対して比較的に開かれた市場を維持する、(二)景気調整的な長期貸付を行なう、(三)恐慌のさいに手形を割引く、という三点において、イギリスは国際経済を安定させるために責任を負う能力をもたず、アメリカはその責任を負う意志をもたず、そのため国際経済システムが不安定になったという理由によるものであった」(『大不況下の世界一九二九’一九三九』二六四ページ)。
じっさい、キンドルバーガーの議論は、マネタリストにせよ非マネタリストにせよ、他の多くの経済学者の分析が国内経済にのみ注意を集中し、国際経済に言及するとしてもそれがアメリカの輸出を抑える効果をもつ限りにおいてであったのに対して、世界大不況の主因を国際通貨と国際貿易の制度的構造、さらには、一次産品と工業製品との交易条件の長期的変化に求めている点において傑出している。 そして、そのことは大多数のアメリカの経済学者によって真剣にとりあげられはしなかったが、一九三二年国際連盟が発行した『世界経済展望」がつとに指摘していたことなのであった。
『世界経済展望』が言うように、一次産品在庫の拡大と主要商品の価格下落という困難に対処するために一次産品輸出国にできることは、より多くの輸出を行なうこと、悪化した貿易収支を金の現送によって償うこと、外国から資本輸入を行なうこと、のいずれかでしかなかった。 妄)のうち、ますます多くを輸出しようとする各国の動きは、ますます一次産品価格の下落を招いた。
また、大部分の小国にとって金の保有には限度があり、第二の方策は現実的ではなかった。 残された方法は第三の資本輸入に頼ることであったが、これらには第一次大戦後起こった大きな変化として、ドイツが最大の資本輪入国・債務国となり、アメリカが最大の資本輸出国・債権国となった姿が示されている。
じっさい、アメリカは第一次大戦が終わってみると、それまでの債務国から一転して債権国になっていた。 アメリカの経常収支の黒字は大戦直後にはGNPの六%にも達し、その後も大不況の期間を通じて経常収支は黒字にとどまった。
(アメリカは一八九六年以降連続七六年間も経常収支の黒字を続けた。 レーガン政権のもとで本格的な赤字が始まった一九八三年までをとれば、経常収支黒字の期間は八七年間にもおよぶ。

)会計的に、経常収支と資本収支は合計すればゼロとなる。 経常収支黒字国アメリカはかくして世界最大の資本輸出国となった。
しかし、アメリカの経常収支黒字が主としてイギリス、ドイツを中心とするヨーロッパに流れ、そこを起点として世界の債務国に還流していく仕組みは、三つの問題をはらんでいた。 第一に、それは国際収支不均衡の一時的な解決策に過ぎず、根本的には債務国の経常的な輸出の増加によって解決されるべき「不調整」の解決を将来に延期することでしかなかった。
アメリカからの資本は、資本輸入国の生産性を向上させ、問題の根本的解決に役立つ限りにおいて世界経済の安定化に役立つ性質のものだった。 第二に、一方で一次産品価格の下落によってデフレに悩む国があれば、他方でそれらの資源輸入国には交易条件の改善による所得の増加が生まれる。
したがって、利益を受けた国が損失を被った国の支出減少と同じ規模で支出を増加させたならば、世界的には需要不足は生じないはずである。 一九二九年にアメリカの輸入品目は上位から生糸(総輸入額の九・八%)、コーヒー(同六・九%)、ゴム(同五・五%)、砂糖(同四・七%)、銅(同三・五%)となっていた。
クーリッジの繁栄は、一面でこうした輸入原材料価格の下落によって支えられていた。 しかし、アメリカは既に見たように所得分配の不平等化から過少消費に陥っており、何よりも、経常収支の黒字そのものがアメリカの国内貯蓄が国内投資を上回っていることの証左であった。

このことは、デフレ国の需要の縮小を補うだけの需要の拡大がアメリカで起きなかった一}とを意味している。 そして、第三に、アメリカは経常収支と資本収支の差額として起こる金の移入については国内に不胎化政策をとり、マネーサプライを拡大させなかった。
この面からもアメリカは国際的な需要不足を打ち消す需要の拡大を怠った。 しかも、二八年に年間二億ドルに達したアメリカの資本輸出は二九年には一挙に二億ドルに減少した。
これはヨーロッパ諸国の発行する債券の購入に向かっていたアメリカの資金が、株式市場の高騰によって国内の資本市場にとどまったために起こった変化であった。 ここにおいて、アメリカの資金は国際的還流をストップした。
それはイギリスが国内経済の悪化から資金調達力を喪失しつつあった時期に起こった。 フランスも資金をアメリカから引き上げた。
国際資本移動は事実上停止した。 かくして一九二九年の秋にアメリカの株式ブームが破裂したとき、一次産品価格はさらに激しく下落し、市況の回復が起こる前に金融制度の崩壊が起こってしまったのだった。
一九三七年一月二○日(一九三三年の憲法修正第二○条によって以後新大統領の任胴順や三期はこの日の正午に始まることとなった)、第二期目の大統領として宣誓したルーズベルトは眼前に展開するアメリカをこう語った。 「私の眼前には、広大な大陸を領して、しかも天然資源の莫大な富にめぐまれた一つの偉大な国家があります。
……ところが、われわれのデモクラシーに挑まれたる課題があります。 私は、教育、娯楽、自己および子孫の境遇を改善すべき機会を奪われている何百万の人々を見かけるのであります。
私は、農場および工場の生産物を買う資力をもたず、また、そのゆえに、他の何百万人が労働と生産にたずさわることをできなくしている何百万の人々を見かけるのであります。 私は、国民の三分の一が衣食住の悪い状態におかれているのを見かけるのであります。
私が、このような状態を諸君にお知らせするのは、絶望しているからではありません。 私が諸君にお知らせするのは、期待をもっているからなのであります。
……」(ルーズベルト大統領第二期就任演説より。

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